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インタビュー
2023.06.01

企業の真の競合は「SNS の中にいる面白いヤツ」── Yahoo!マート初のTikTok マーケ 赤裸々対談 第3回

今回はヤフー株式会社のオフィスにお伺いし、TikTok クリエイタータイアップをご一緒した「Yahoo!マート」マーケティング担当の山﨑さんとお話ししています。社内で先陣を切って、初のTikTok 施策、そしてクリエイターとの広告制作にチャレンジされた山﨑さん。対談の第1回第2回では、TikTok というプラットフォームや、そのコミュニティで等身大の憧れであるクリエイターについてお話しました。今回は一転して、Yahoo!マートというサービスや、山﨑さんが大事にするマーケターとしてのスタンスについて伺います。

もしYahoo!マートが、1人のクリエイターだったらどうなる? 「最短15分で届く」を擬人化してみた。

明石
前回、サービスと文脈の合うクリエイターさんを起用して、いかに動画作りを任せながらもディレクションするか?という話を掘り下げました。
ちょっとここで話題を切り替えてですね。今回のサービス側である、Yahoo!マートの話をしたいと思います。山﨑さんのなかで、Yahoo!マートはどういうサービスだと定義づけてるんですか?

山﨑さん
「今世の中に存在する中で、最短で届くeコマース」じゃないですかね。
(補足:クイックコマースの業態全般を示す)

明石
おおー!かっこいい!最短で!

山﨑さん
最短です。ネットスーパーの数時間ではなく、15分で届きます。

明石
すごいですよね。この前Twitter でちょっと話題になってましたけど、お店がコンビニの居抜きみたいですね。

山﨑さん
そうですね。居抜きでやってる店舗もあります。

明石
面白いですね。コンビニの居抜きになってるが故に、商品整理みたいなのがしっかりされてそうですよね。運ぶ人にとってもすぐ分かるように工夫しているんですか?

山﨑さん
居抜きと言っても、棚はないんですよ。なので棚割りは、僕らが自分たちでやっています。内部はピッカーとドライバーに分かれているので、ピッキングはピッカーがやって、ドライバーは運ぶという役割分担をしていますね。

明石
なるほど!

2022年8月には、ユーザーが直接買い物できる来店型店舗の運営も開始したそう。


最短15分で食料品などを宅配するYahoo!マート、クイックコマース事業者として初の来店型店舗運営を開始 - ニュース - ヤフー株式会社

〜 今後も店舗や商品展開のあらゆる可能性に挑戦することで業界をリードし、日本の買...

about.yahoo.co.jp

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明石
最近ファストフードの歴史みたいなドキュメンタリーをAmazon Peime Video か何かで見たんですけど、その中でマクドナルドが誕生する時の話が出てて。
マクドナルドがファストフードの元祖みたいなもんなんですけど、あの仕組みって最初に駐車場にマクドナルド兄弟が、爆速でハンバーガーを提供できるキッチンの図をチョークで書いたのが始まりらしいんです。その図のなかを動き回って、ひたすらシュミレーションして、ハンバーガーが2分30秒とかで提供できるようになるまでずっとプロトタイプを考えてできたのが、マクドナルドのあのシステムなんですよ。

山﨑さん
知らなかったです。

明石
しかも最初はそのシステム自体を売ってたらしくて。サブウェイやタコベルは、全部マクドナルド兄弟の「スピーディー・サービス・システム(*1)」というシステムの講習を10万円くらいで受けて、同じシステムを使えたらしいです。

山﨑さん
今考えると安いですね(笑)

明石
ですよね(笑)だからマクドナルドがなかったら、他のファストフードもなかったんですよね。Yahoo!マートの速さはまさに企業秘密だと思うのですが、ピッカーの人のピッキングを最適化する何かがあるんですよね、きっと。

山﨑さん
それはありますね。各社自社で開発していたり、ベンダーと連携していたりするんですけど、棚割りが重要なのと、それをピッキングするシステムが鍵ですね。

明石
なるほどね。新しいビジネス、新いサービス自体を作っていくのは、めちゃめちゃワクワクすることだと思います。この新しさをうまく世の中のリズムや歯車に噛み合わせていくのが、マーケターとしては必要じゃないですか。
今回はTikTok でしたけど、他にクイックコマースというサービスカテゴリが世の中に浸透していってるなと感じたきっかけになった出来事はありますか?

山﨑さん
コロナ禍の影響はやっぱり大きかったかなと思っています。全員が家にいないといけない状況でしたから。それはUber Eats 然り、出前館のフードデリバリーも然り、かなり急速に伸びましたけれども、日用品の配達という分野もこの変化に対応して伸びていったのは感じていますね。

明石
世の中の変化と噛み合わさるポイントがしっかりあったわけですね。
今回広告コミュニケーションにおいては、クリエイターさんという「人」をクッションにして、TikTok 上でレコメンドして見事にハマりました。一方で、企業自体が直接発信していくフェーズも必要だと思っています。これは従来の広告的なやり方というよりは、企業自体がクリエイターになるということですね。

もしYahoo!マート自体がクリエイターになるんだったら、どういう風にYahoo!マートの魅力をSNS のレコメンドエンジンの中で伝えていきたいですか?

山﨑さん
なるほど…難しいですね(笑)
1番サービスの提供価値として伝えたいのは「早く、すぐ届く」だと思っています。

明石
「早く、すぐ届く」存在として、みんなに知られたり、あいつすげぇ!と思われたいわけですね。

山﨑さん
そうですね。

明石
もしYahoo!マートが人間だとして、クリエイターだったら、どういうクリエイターなんでしょうね。なんでも15分以内に届けるマンとかですかね(笑)

山﨑さん
そういうことですね。僕も今、ウルトラマンが頭に浮かんできました。
3分で敵を倒して帰るみたいな感じで、15分で欲しいものを届けて帰るとか、そういう感じなのかもしれないです。

明石
「ザ!鉄腕!DASH!!(*2)」であるように、すごいプロ達が出てきてチャレンジするみたいな。

山﨑さん
あー分かります。すごい場所なんだけど、15分以内に届けきって帰る!みたいな(笑)

明石
それは見てみたいなあ(笑)
これまでの広告とは全く違いますけど、ユーザーやクリエイターが主役のなかで、企業のコミュニケーションってこういうことなのかなと思います。今ってSNS プラットフォームの中にみんなが滞在していて、そこには色んな面白いことをやるクリエイターがたくさんいますよね。

要は企業の競合っていうのは、競合他社ではなく、SNS の中にいる他の面白いヤツらなんですよね。この面白いヤツらに、対価を提供して協力してもらうか、自分自身が面白いヤツになるかっていう戦いが始まるんじゃないかって僕は思っています。

山﨑さん
なるほどですね。まさに今回は前者でしたけど、サービスが続いていくなかで後者のアプローチも必要になってくると。

マーケターが理解すべき、検索エンジン → フォロー → レコメンドの3段階

明石
SNS 、とくにTikTok は圧倒的にクリエイターとしての参加ハードルが低くなったんですよね。だから日本全国で面白いヤツらが日々何万本もの動画をあげています。
ちなみに、山﨑さんご自身は普段TikTok は見てますか?

山﨑さん
YouTube ほどではないですけど、たまに見てますね。ですが、発信はしたことないですね。ゴルフが好きなんで、僕のフィードにはゴルフ系動画がよく出たりします。

明石
ゴルフがレコメンドされてるんですね。
先程も触れましたけど、TikTok はまさにレコメンドカルチャーですよね。このレコメンドを理解しているかどうかで、今の最先端の動画マーケティングへの解像度が結構変わっちゃうと思ってるんです。まだ検索エンジンの考え方で止まってる人と、フォロー/フォロワーという段階で止まってる人、そしてレコメンドまで理解している人、この3段階がデジタルの中にはあると思ってます。

山﨑さん
弊社は内部でデータを持ってるので、レコメンドは各サービスが様々な形で提供してます。けど、内部でこの解像度や習熟度にはかなり差がある気がしますね。例えば、パーソナライズという個人レベルでの細かいレコメンドだと、今度はニッチになってしまって、ボリュームが少なくなっちゃう。実際に作ってる側からすると、そこの狭間で揺れたりすることもあるんじゃないかなと思います。

ー それぞれのユーザーの興味に応じて、おすすめされる動画をパーソナライズするTikTok のレコメンドエンジン。詳しくは第1回記事をどうぞ。

ー ちなみに、かつては友人や好きなブランドなどフォローしているコンテンツを見る場だったInstagram も、TikTok の隆盛を横目にフォローからレコメンド重視に仕様を変更。Instagram の“TikTok 化” とも言われたりしています。

明石
今色んなSNS が、フォローからレコメンドにシフトしていますよね。そうすると「このレコメンドの中でハマるコンテンツは何か」を考えなきゃいけない。でもこれが、SNS 1.0みたいな人だと「フォローしてる人の投稿が出るんじゃないの?」という感じなんですよね。

山﨑さん
確かにそうですね。そのさらに前の、検索キーワードを刷り込むぞ!っていうテンションも未だにありますよね。

明石
そうなんですよね。このレコメンドカルチャーについて、もちろんYahoo! JAPAN の皆さんは理解があると思うんですけど。IT じゃない業種の会社さんだと、ここが分かりにくかったりすると思うんですよね。
Instagram もTwitter も、フィードの中ではフォローよりもおすすめの方が優先されていき、それが情報消費のデフォルトになっていく。未だに企業が企業の言いたいことを言うだけになっちゃってる。それだと浮くと思うんですよね。

山﨑さん
なるほど。浮くし、もちろん広告として成果も出ないですね。

クリエイター協業にチャレンジする、マーケターへのアドバイス

明石
最後に、今日お話したことを簡単に振り返りたいと思います。今回山﨑さんにとって、TikTok やクリエイタータイアップに初めてチャレンジされて、成果を残せた。いかにオケージョン訴求で馴染みを持たせるか?がポイントで、ここを2組のクリエイターさんにしっかり任せてディレクションができたことが大きかった。
でもそもそも、Yahoo!マートさんのなかで「どういう刺激を与えればユーザーが来てくれるのか」っていうサービス側の設計がちゃんとできていたのかなと思うんですよ。

山﨑さん
結果としてそうだったら嬉しいです。今は新規事業で人も少なくて、なりふり構わずテストしてるところなのですが、うまくハマって良かったです。

明石
我々としてもそこの設計がしっかり立案されていると、「じゃあこのクリエイターさんでこういう風にしたら?」と、ターゲットに見てもらえる算段がつくんですよね。
この記事を読んでいる方の中で、自分たちの訴求軸に悩まれている若いマーケターさんがいると思うんですけど、その方にアドバイスするとしたら?

山﨑さん
僕自体がひよっこなんで、何て言おうって感じですけど(笑)
データを納得いくまで見ること、自分なりの仮説を立てること、この繰り返しでしかないと思います。外れててもいいので、自分でしっかり考えて仮説を立てる。最終的に検証していくので外れてもいいとは思ってるんです。でも常に仮説を考えて、なるべく確かだと思えるように自分で補強していくことをやり続けるといいんじゃないかなと思います。

明石
仮説がないなかで「えいや」でやっちゃうと、結局何が当たってて何が外れてるのか分からないから何も検証材料として残らないんですよね。確かに。自分の中の論拠をしっかり持って、これは当たったんだとなって、次にいくのがいいと。

山﨑さん
そうですね。

明石
その時に、仮説を実現したり、目に見える形にしたりするのが、ある種クリエイティブディレクターの役割ですよね。今回はこのクリエイティブディレクター的な役割を、クリエイターさんに託したということだと思います。
できるだけ託すうえで、「ここは押さえてくれ」っていう、押さえどころのバランスも難しいですよね。

山﨑さん
いやあ、正直確かに難しいですね(笑)

明石
押さえどころを言いすぎると、クリエイターさんが”がんじがらめ” になって自由に作れなくなるし、何も言わないと何も当たらない。そこのバランス感で意識されたことはありますか?

山﨑さん
そうですね。
これからの僕の発言は、TikTok クリエイターさんというよりは、僕らも社内で多くのデザイナーを抱えている会社ではあるので、社内のデザイナーと話す時に意識していることなんですけど。なるべく1人で悩みすぎない、ということを意識していますね。

例えば、クリエイターサイドも時間があった方が良いアイデアが出てくる、余裕が生まれてくることが多いですよね。だから自分のところでボールを持ちすぎると、このクリエイターが考える時間が減る。だからなるべく早い段階でデザイナーにインプットするようにしています。「こうなりそうなんだけど、また決まったら本格的に連絡するね」でもありだと思いますし、「こういう風に決まったんだけどどう思う?」とかですね。なるべくクリエイターとコミュニケーションを取るべきだと思っています。

明石
今お聞きして思ったのは、Facebook の標語です。マーク・ザッカーバーグの「Done is better than perfect. / 終わってることは完璧より素晴らしい」ていう言葉があって、とにかくボールを渡していく。それによって、キャッチボールの回数を増やしていくのが大事かもしれないですね。

山﨑さん
まさに。その結果、クオリティが上がるのかなという印象があります。
とはいえ、ビジネスサイドがやりたいこととクリエイティブサイドがやりたいことはぶつかるので、そこは要件とサービスの内容次第ではありますけどね。ちゃんと意見を通して、ここだけは守ってねって自信を持って言ってみるって感じですかね。いかに時間がなかったとしても。

明石
なるほど、面白いですね。
今回でいうと、オリエン時のプロセスから、山﨑さんとクリエイターさん側のキャッチボールがあったわけですね。このコミュニケーションがあったからこそ、まさにクリエイターさんとブランド側、そしてそれを見ている視聴者も三方よしになるコンテンツができたんじゃないかなと思っています。
ぜひ引き続き、この三方よしなクリエイティブを御社のチームと弊社のチームで考えていけたらと思っています!ありがとうございました。

山﨑さん
ありがとうございました。

*1  スピーディー・サービス・システムは、マクドナルド兄弟が開発したハンバーガーを速やかに提供するための工場式のハンバーガー製造法。
*2 「ザ!鉄腕!DASH!!」は、TOKIO が「人間の限界」をテーマに様々な挑戦をする日本テレビ系列のバラエティ番組。

PROFILE

ヤフー株式会社 コマースグループ
リテールEC事業本部マーケティング部 部長
山﨑 聡

新卒でヤフー株式会社に入社。Eコマース領域を一貫して担当。
Yahoo!ショッピング、ヤフオク!の営業、企画を担当後、ヤフオク!の事業戦略リーダー。「eコマース革命」などに携わる。リーダー時に、チケット二次流通などの課題解決のためにavex社とチケットを扱うJVを設立、出向し企画部長。その後、Yahoo!チケット、Passmarketといったチケットサービスのサービスマネージャーを経て、2021年12月よりマーケティング担当として、Yahoo!マートに参加。