「TikTokをやるのは怖かったです」── Yahoo!マート初のTikTokマーケ 赤裸々対談 第1回
今回はヤフー株式会社のオフィスにお伺いし、サービス1周年記念のタイミングでTikTokクリエイタータイアップをご一緒した「Yahoo!マート」マーケティング担当の山﨑さんとお話しました。
はじめてのTikTok施策に挑戦するときのリアルな気持ちや施策の成果、そして「もしYahoo!マートがクリエイターになったら?」など、TikTok × マーケティングについて伺いました。初対面ながらも赤裸々に話してくださる山﨑さんに、明石もついつい熱く語ってしまい… 対談記事は、3回に分けてお送りします。
(編集部:約2万字のインタビュー書き起こしをもらったときは驚きました 笑)
「最初は、正直ビビってました」社内で先陣切ってチャレンジした理由
明石
山﨑さん、この度はご一緒させていただきありがとうございました!ちなみに、山﨑さんはもともとONE MEDIA という会社や私のことはご存知でしたか?
山﨑さん
正直、存じ上げてはおりましたが、詳しくは知らなかったです(笑)ONE MEDIA さんでいうと、動画クオリティがすごいとか、クリエイティブなものを作るというイメージがありました。明石さんはやっぱりインフルエンサーとしてマーケティング関連のご発信をしているという感じですね。
明石
なんか特徴的な、癖の強そうな人がいるなあと(笑)
山﨑さん
そうですね(笑)具体的な内容までは追ってなかったです…
明石
今回TikTokに取り組まれている企業のマーケターの皆さんのご感想や成果を掘り下げていこう、という連載をやっています。そもそもなんでこの連載をしようと思ったかというと… みんなTikTok というSNS にめちゃくちゃビビってる感じ、ないですか?
山﨑さん
分かります、分かります。僕も最初は正直ビビってました(笑)
明石
今回皆さんYahoo!マートチームにとっても初めてのTikTok でのマーケティングだったと聞いています。どうですか? TikTok で仕掛けることに対して、最初どういうお気持ちでしたか?
山﨑さん
そうですね。効果が出るのかどうか分からなかったですし、先陣を切って取り組むのはハードルがありましたね。
明石
なるほどですね。すでに事例があれば通しやすかったけど、何もないわけじゃないですか。そんな中で、TikTok をやってみなきゃいけないなと思ったきっかけは何だったんですか?
山﨑さん
そうですね。そういう意味では、実は今回背中を押してくれた存在はいたんですよ。今やっている「Yahoo!マート by ASKUL」(以下、Yahoo!マート)という事業は、Zホールディングスの中で、グループ会社のYahoo! JAPAN 、アスクル、出前館、LINEの4社で取り組んでいます。中でも出前館は、Yahoo!マートのプラットフォームとしての機能を担っていて、アプリからの注文ができる形態になっており、ユーザー訴求などの連携も行っています。そんな出前館が、先日ONE MEDIA さんと行ったTikTok プロモーションで成果があったと聞いたんです。
もともと今回のきっかけは、Yahoo!マートのサービスが始まって1年経ったタイミングだったことで、「1周年記念の販促をやろう」「ターゲットにリーチさせる施策をやろう」という話があって。担当の僕としては、「いい施策をやらなきゃいけない」と唸ってる時に、出前館の担当者から「今抱えてる悩みだったら、ONE MEDIA さんとTikTok 施策やるのがあってると思うから、1回話聞いてみない?」と背中を押してくれたんですね。それで一度お話させていただいて、企画がトントン拍子で進んだって感じでしたね。
明石
背中を押されるまでは、はっきり言っちゃうと「訳の分からない」施策だったわけですよね。いわゆる「わけわかめ状態」というか(笑)
山﨑さん
そうですね(笑)まさに。
ー Yahoo!マートについて簡単に紹介。食品や日用品を、なんと最短15分で配達してくれる便利なサービスです
出典 https://mart.yahoo.co.jp/
「『きみが好きなもの』の中に広告を織り込む」市場もサービスも新しかったYahoo!マートのチャレンジ
明石
TikTokのプロモーションについて「わけわかめ状態」だった山﨑さんが、出前館さんに背中を押されて、我が社の人間にプレゼンをされて始まった企画と思うんですが。
一番最初に山﨑さんの中で、「なるほど、そうなんだ!」という気づきがあったところはありますか?
山﨑さん
僕ももちろんユーザーとしてTikTok を使っていました。でも「広告」として認識したことがなかったんです。
なので、どういう広告があってどんな効果があるのか? が最初は分かりませんでした。この部分をちゃんとONE MEDIA の営業さんから説明いただいて。こういう風に広告が出て、こういう風にCTAボタンが出てクリックしてというユーザージャーニーが想像できたんですね。
「これだと効果ありそうだな」って思ったのがまず第一歩でした。あと他の企業様が意外とやっていて、それで効果が出たという事例を知ったのも、背中を押すきっかけになりましたね。
明石
確かに。人によって「おすすめフィード」に出てくる動画が全然違うってのが、TikTok の特徴じゃないですか。当然広告も人によって変わっていくわけですけど。各々の観測範囲によって全く印象の変わるプラットフォームですよね。
これは笑い話なんですけど、ある会社の男性の社長さんと会った時に「明石くんさ、TikTok ってのは、女の子しか出てこないの?」って言ってて「それはレコメンドエンジンというのがあってですね〜」みたいな(笑)
山﨑さん
あなたが見てるからですよ、と(笑)
明石
そうそう(笑)っていうのは言えないから「ああ、そうですね〜。人の属性によって出てくるものが違うという風には聞いてますね〜」って、めっちゃ言葉は濁したんですけど(笑)
まあ、TikTok のテレビCM キャッチフレーズに「きみが次に好きなもの。」っていう言葉があったんですね。まさにこう、あのフィードの中にそれぞれの好きなものがあって、その好きなものの中に広告を織り込んでいく。だからこそ高い効果があるのかなと思っています。
ー TikTok がTikTok たる所以の「レコメンドエンジン(*1)」の仕組みイメージ。それぞれのユーザーにコンテンツが最適化されています。
明石
各ユーザーの好きなものが流れていく中に、Yahoo!マートのサービスをどう織り込んでいくか。Yahoo!マート自体も新しいサービスですし、そもそも「クイックコマース」というマーケット自体が新しいですよね。
山﨑さん
そうなんです。サービスもマーケットも新しいYahoo!マートをTikTok に「織り込んでいく」ために考えていたのは、利用シーンに馴染みを持ってもらうこと。
実はユーザーアンケートをしても、この「馴染み」はサービスの課題でした。例えば出前館やUberEats などの飲食デリバリーを使う方でも、リテール分野、いわゆる日用品や食品の領域を15分で届くようなコマースで注文することは馴染みがないんですよね。なのでまず身近に思ってもらわなきゃいけないって思っていました。
明石
なるほどね。身近に。
今回ご一緒した施策は、Yahoo!マートのサービス認知と利用動機を作ることを目的に、2組のTikTokクリエイターに動画を作ってもらって、TikTokのインフィード広告で配信したんですよね。先程の「馴染み」を作っていくために、意識されたところはありますか?
山﨑さん
今回のTikTok施策では、2つのオケージョンでYahoo!マートを使っている様子を想像できるようなクリエイティブを作ったんです。
1つは一人暮らしのズボラ女子クリエイターが【外に出たくないから頼む】っていうオケージョンです。もう1つはお子さんの育児とかもあって【外にも出られない、そんな中で15分でモノが届くと助かる】といった、子育てファミリークリエイター。この2つのオケージョンをうまく想像できて、サービスの利用シーンに「馴染み」を持ってもらいたいと思っていて。この課題を考えると、今回のTikTokクリエイタータイアップは、うまくハマったなと思っています。
ー 1つ目の【外に出たくないから頼む】オケージョン。ネオ無職、酒テロクリエイターを自称している「世界一のゆっけ、(*2)」さんとコラボした
ー 2つ目は【外にも出られない、そんな中で15分でモノが届くと助かる】オケージョン。家族の日常シーンをVLOGとして投稿している「みーるファミリー(*3)」さんとコラボ
明石
まさに、まだ知らないサービスであっても馴染ませる/身近に感じてもらうというのはTikTok の動画の良いところかなと思っています。博報堂ケトルの嶋浩一郎さんが、インターネット広告というものは、欲望の刈り取りはできるけども、欲望の顕在化はできないみたいなことをよくおっしゃってたんですよ。例えば、Yahoo! で検索するワードって、すでにその言葉を知ってるから検索できますよね。
要するに、言葉とサービスイメージが紐付いていてはじめて、検索ワードが付いてくる。でも「Yahoo!マート」はまだ始まったばかりのサービスですし、サービス名のさらに手前の「クイックコマース」という言葉もまだイメージとセットで定着しているわけではないですよね。「クイックコマース」と聞いて、すぐに内容を想像できる人はあんまりいない。
山﨑さん
全然いないですね。
明石
でも最近、「家にいながらでも、ぱぱっと届けてくれるフードデリバリー的なものが現れ始めたぞ」っていうことはなんとなく知ってたりする。実際に聞けば「あー、あれあれ!」となるかもしれない。
そんな言葉を知らない潜在層に対して、それを動画というビジュアルコンテンツとして見せられると「ああこれだ」とイメージが紐付いて、反応するのでは?という仮説だったのかもしれないですね。
山﨑さん
まさに、おっしゃる通りですね。
驚異のクリック単価 20円台を達成! 認知→興味へ、足りなかったピースが上手くハマった
明石
ちなみに今回提案からご決裁、実施まで合計2ヶ月以内というスピード感だったと担当から聞いています(笑)急いで実施まで持ち込めたことで、「モメンタムを捉えたな」という手応えはありますか?
山﨑さん
そうですね。今回7月のサービス1周年記念前後で色々な施策を用意していたんですが、最後の欠けていたピースが認知施策だったんです。それが今回のTikTok施策によってうまくハマっていきました。正直なところ、単独でTikTok やるのは怖くて、最初チャレンジするなら、他のメディア施策と合わせて「掛け算」にはしたいなと感じていました。
明石
なるほど、じゃあ他のメディア施策も走っているなかでうまくハメていった…ということですね。1周年記念の総合的なマーケティングの中で、TikTok施策は具体的にどういう役割になりましたか?
山﨑さん
全体としては新規ユーザー獲得を目指していて、TikTok施策に関しては、刈り取りではなく、新規層へリーチする部分に重きを置いていましたね。同時期に色々と施策は走らせていて。オンラインでは、出前館のLINE公式アカウントで配信させて頂いたり、Yahoo! JAPAN 上でプロモーションするなど。あとオフラインのポスティング施策もやっていました。ただ、サービスをもうひと伸び成長させるには、新規層にリーチするための施策を新たに開拓しなきゃいけない必要性をそもそも感じていて、そのピースをオンライン施策で探していました。
明石
Yahoo!マート自体まだサービスエリアが限られてますよね。
山﨑さん
そうですね。今は日本のなかでも都内近郊になっていて、さらに東京23区内のカバー率が約80%(2022年9月時点)くらいですね。
明石
と考えると、エリアの限定条件があるなかで、さらに同じ施策を重ねることでターゲット層のリアクションの鈍化に悩んでいたと。そこでエリアターゲティングもでき、かつ先程の「欲望の顕在化」という認知施策も両立できたから、TikTok が良かったわけですね。
結果としてはリーチはもちろん、クリック単価が20円台と聞いています!動画広告でクリック単価20円なんて、インターネット業界長いですけどあまり聞かない数字ですよね(笑)
山﨑さん
そうですね、かなりいい数字を出していただいたかなと感じています!
明石
これは、TikTok アプリ自体のポジティブな仕様変更もあったみたいですね。
山﨑さん
はい、タイミング的には非常に運が良かったとは聞いてます(笑)
明石
そうなんですよね(笑)
ただ同時に、動画の再生完了率も平均の約3倍の数字だったと。ちゃんと中身も見てもらえて、その上で遷移してもらえた、と言えると思います。この中身を見てもらえた、という部分においては、今回ご一緒したクリエイターさんの力量も大きくて。ここはぜひこの後、対談の後半で深くお話聞いていきたいと思います。
「TikTok売れ」があって「YouTube売れ」がない理由
明石
世の中の社会情勢の変化やTikTok が隆盛する中で、「TikTok 売れ(*4)」っていう言葉が去年めっちゃ流行ったんですよ。日経トレンディの2021年の流行語大賞が「TikTok 売れ」なんですよね。TikTok を起点に色んな商品やサービスが話題になって売れるっていう現象なんですが、面白いのは「YouTube 売れ」っていう言葉ってないんですよ。「インスタ映え」はあるけど「インスタ売れ」もないですよね。TikTok だけセールスプロモーションっぽい言葉が流行しているのが面白い。
これはなぜなんだろう?と考えていて。このテーマに関して、TikTok for Buisness では「興味からズドン(*5)」っていうキャッチフレーズを持っています。
普通のマーケティングファネルだと、認知があり、興味、理解、共感、最後に購買に至るんですよ。そうじゃなくて「興味から、ズドン」なんだと。いきなり購買に直結するんですね。これに近いことが、今回の施策においては再現できたのかなという風に思っています。実際動画の再生完了率が媒体平均の3倍という結果だったのは興味があるからですよね。
そこから「ズドン」と最後の利用にまで至るには、本質的にはサービスや商材のパワー次第でもあります。例えば、昨年面白かったのが、筒井康隆さんの小説が女子高生の間でTikTok 売れした事例。すごくないですか。
山﨑さん
すごいっすね。
明石
最初のきっかけは、とある書評をするTikTok ユーザーの紹介だったらしいです。
今や、コスメや自動車は当たり前に「TikTok 売れ」してるんですけど、本みたいなものすらも「興味からズドン」するんだなと驚きました。もちろん筒井康隆さんの小説は面白いんですが、でもその事実をみんな知らないじゃないですか。その認知や興味の手前の段階から一気に飛躍して、「じゃあ買ってみよう、試してみよう」まで至る部分、これがTikTok の魅力だなと思っています。それはなんでなんだろう?とずっと考えているんですよね。僕もその答えは正直分からないですが、でも結果としてそうなることは分かっていて。今回山﨑さんとして、TikTokの「興味からズドン」な理由ってなんだと思われましたか?
山﨑さん
「興味からズドン」する理由… そうですね、今回結果からいくと、流入はとても増えたんですけど、最後の購買までは明確にKPI が上がらなかったんですよね。
それはただ先程明石さんがおっしゃったように、まだ23区内にしか出てないサービスを東京都全体で広告を回したからギャップがあったのかなって思っています。その上で、今回に関しては「ズドン」するまではいってなかった感じですね。いきたかったです。
明石
僕もいかせたかったです。
山﨑さん
色々方向考えて、いかせたいなと思っているんですけど。
明石
「ズドン」にいくとしたら、どうしたらいいんでしょうね。それは僕らが考えろって話ですけど(笑)
山﨑さん
サービス自体の魅力を、もうちょっと上げなきゃいけないのかなと思っています。色々方向考えると言ったのはまさにこの部分なんですが。
今回の反省だと、動画クリエイティブ内で1周年記念のこと触れなかったんですよ。1周年記念をやってたものの、オケージョン訴求に集中したかったので。でも、例えば1周年記念の限定感を出してみる、新商品にフォーカスしてみるとか、興味の次にある「ズドン」と売れるための仕掛けは考えられたなと思いますね。
明石
なるほどですね。要は何か興味を持ったあとの、フックされる網を張っておくというか。
山﨑さん
そうですね、ただサービス特徴である「15分で届く」だけだと、遷移後にアプリをパッと見て15分で欲しいものがなかったらそれで終わりですよね。「15分でアイスが欲しいな」というところまでクリエイティブを作っちゃえば、アイスが食べたい気持ちだし15分で頼みたくなるじゃないですか。そういうことだと思っていて。
今回はオケージョンフォーカスで上手く遷移することは分かったので、もう少し具体的に、すぐに手を出したくなるところまでを動画クリエイティブに入れたいですね。
明石
オケージョンの先の、具体的なシチュエーションに至るまで「こんな時にYahoo!マート」みたいに想起してもらえるような…
山﨑さん
まさに。そうなるといいなと思っています!
まだまだ話は続きます。この後は、今回サービス認知と興味関心作りに欠かせなかった、TikTok クリエイターとの協業とその制作プロセスについて伺いました。
*1 レコメンドエンジンは、ユーザーが興味を持ちそうなコンテンツをAIが判断し、おすすめフィードに厳選されたコンテンツやクリエイターがレコメンドされる仕組み。
*2 世界一のゆっけ、さんは、日本のYouTuber、TikToker、作家、エッセイスト、歌手。ネオ無職、酒テロクリエーターを自称するクリエイター。 栃木県出身。血液型はO型。
*3 みーるファミリーさんは、東京在住の共働き夫婦と2019年生まれの少年のVLOG動画を投稿するクリエイター。グルメと旅行を中心に動画投稿を行う。
*4 TikTok 売れは、TikTok 内で紹介された商品やコンテンツが爆発的な拡散を経てトレンド化しヒットすることを指した言葉。
*5 興味からズドンは、TikTok 上の新しい興味との出会いがダイレクトに購買意欲を刺激し、検索行為を飛ばして、一気に購買までドライブする消費者行動を指した言葉。
PROFILE
ヤフー株式会社 コマースグループ
リテールEC事業本部マーケティング部 部長
山﨑 聡
新卒でヤフー株式会社に入社。Eコマース領域を一貫して担当。
Yahoo!ショッピング、ヤフオク!の営業、企画を担当後、ヤフオク!の事業戦略リーダー。「eコマース革命」などに携わる。リーダー時に、チケット二次流通などの課題解決のためにavex社とチケットを扱うJVを設立、出向し企画部長。その後、Yahoo!チケット、Passmarketといったチケットサービスのサービスマネージャーを経て、2021年12月よりマーケティング担当として、Yahoo!マートに参加。
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