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インタビュー
2023.06.01

TikTokコンセプト「支出の半分をコスメ」は、偶然と必然で生まれた ── 美容系クリエイター ありちゃん × 明石ガクト 対談(前編)

TikTok Studio by ONE MEDIA コラムでは、ワンメディア代表の明石ガクトと、第一線でチャレンジするクリエイターやブランドのキーパーソンを招いた対談を定期的に発信していきます。

第一弾は美容ジャンルで活躍するSNSクリエイターのありちゃん。レッドオーシャンとも言える美容ジャンルで、SNS総フォロワー80万人(2022年8月7日時点)と多くのファンに愛されるクリエイターになるまでのプロセスと想いについてお話を伺いました。前編となる本記事では「支出の半分がコスメ」という彼女のアカウントコンセプトの誕生秘話を探ります。「SNS の9割はアカウントコンセプト」と語るありちゃん。そこには自分らしい個性発見に加えて、TikTok の情報発信におけるポジショニング戦略がありました。

実は、クリエイターになる前の会社員時代から知り合いだったありちゃんと明石の2人。そんな思い出話から対談はスタートしていきます。

クリエイター「ありちゃん」誕生前夜。YouTube は伸びなかった


明石
やあどうもありちゃん、ご無沙汰ですね。また目覚ましい活躍をされているようで…

ありちゃん
いやいやいや。

明石
実は僕は「ありちゃんがありちゃんになる」前の2019年頃から知り合いなんですよね。当時ありちゃんは何をしてたんですっけ?

ありちゃん
あの時は、@cosmeで正社員でしたね。発信活動はInstagram でちまちましていたんですけど。

明石
なんか手書きのキャプションの入った凝った画像編集をしてましたよね。めちゃめちゃ作るの大変そうな(笑) あの時確か…フォロワー5,000人くらいかな。当時はInstagram だけだったんですか?

ありちゃん
そうですね、1万人ちょい手前くらいでした。Instagram だけだったんじゃないかな。その後すぐYouTube をはじめました。2年くらい前かな。

ー 2018年頃に始めたInstagram。当時と今は全く違うトンマナだった
出典: https://www.instagram.com/p/Bjcj65vH05M/

明石
ありちゃんがYouTube をはじめた時、僕が動画の仕事をしているのもあって、一緒にYouTube の話をしたじゃないですか。その時、ありちゃんが「YouTube あんまり伸びないんです〜」みたいなことを言ってましたよね。

ありちゃん
そうそう。正社員やりながら定期的に週に2〜3本くらい動画を出していたのに、本当に伸びてませんでした。YouTube って10万人が1つの壁だと思うんですけど、「私、10万人行くの5〜6年後くらいなんじゃないか…」って思うくらい。それくらい伸びてなかったです。

明石
動画はすごくいい感じだったからなんで伸びないんだろうなって思ってました。でも、僕もそこに対するアドバイスも浮かばなかったんですよね。
そしたら去年のある日、うちの社員が「TikTok ですごい人がいるんです。コスメ紹介の『ありちゃん』って言うんですけど…」って言ってきて。コスメでありちゃんって聞くと、僕の中で1人ヒットする人がいて。

ありちゃん
まあまあ(笑)

明石
「あれ、でもInstagram でもYouTube でもなくて、TikTok なの?」って聞いたの。そうしたら、これですよってTikTok の画面を見せられて。顔は出てないんだけど、「この人多分知ってるぞ」って(笑)

競合ひしめく美容ジャンル。個性発見のきっかけは「家計簿」

明石
ありちゃんのTikTok と言えば、なんといっても動画のスタイルとアカウント名。この2つの特徴ですよね。これがTikTok でフォロワー数が伸びた要因だと思うんですけど、最初からあのスタイルだったんですか?

ありちゃん
最初はそんなことなくて。実はTikTok を始めた時は「よし!TikTok にフォーカスするぞ!」って思ってたわけじゃなかったんです。そもそも Twitter で美容コンテンツを出したらそれがバズったんですよ。いいねが3万くらい伸びて。

明石
おおすごい。

ありちゃん
そのコンテンツを動画にしても伸びるんじゃないか?と思って、試しにTikTok に投稿したのがきっかけです。そしたらTikTok でもバズって。でもこれまでの経験から、ただ美容情報を発信するだけでは意味がないのはなんとなく分かっていたんですよ。ちゃんとコンセプトを決めてやらないとなって。

明石
それで生まれたのが、あのコンセプト?

ありちゃん
そうです。「毎月の支出の半分をコスメに充てる女。どうもありちゃんです。」

明石
あれすごいですよね。TikTok で伸びるアカウントは、必ず冒頭2秒でコンセプトを言うじゃないですか。「僕はお金持ちの付き人」とか「東京の大学生」とか。
これって、TikTok だと動画冒頭で「この人は、こういう人なんだ」というのが分からないとスキップされるからなんですよね。しかも美容ジャンルは多くのクリエイターがいて、「元美容部員です」「モテクリエイターです」とか色んな言い方が既にされ尽くしている。そんな中、ありちゃんの「支出の半分」という経済的なワードには驚きがありました。

ありちゃん
そうなんです。やっぱり、美容アカウントや美容の企画は似てくるんですよね。エンタメなら企画の幅が広いんですけど、美容ってやれる範囲が決まっちゃってる。だから、発信者がたくさんいる中で、誰がどうやって発信するかがすごく大切。

私は当時「@cosme社員」を1つの個性としてたんですけど、それだけじゃ届かないなと思っていて、とにかくプラスできる自分の個性を探していました。そんな時、たまたま自分の家計簿を見たんです。そうしたら支出の円グラフの半分が美容になってたんですよ。それまでは気にしてなかったんですけど、「あれ、これって個性なんじゃない」って。

明石
すごい。たまたま家計簿を見て個性を発見したと。偶然だったんですね。

ありちゃん
本当に偶然ですね。でも、TikTok で発信をするならエビデンスが大事だなと思っています。コスメオタクとかいくらでも言えますけど、エビデンスとして家計簿って数字で表れてるから、ファンにとっても強いんじゃないかと。

明石
PR的に言うと、ファクトの積み上げってやつですね。ありちゃんのコンセプトがたくさんの人に受け入れられているのは、”ちゃんと自分でお金使って試してるファクト” が支持されているのだと思います。

ありちゃん
そうなんです。だから、実際の動画でも持ってるコスメを全部写していますね。ちゃんと量もありますっていうエビデンスを意識しています。

ー ありちゃんのTikTokに映るアイテムの量は圧倒的…


「SNSはアカウントコンセプトが9割」自分の個性 × ポジショニングで差別化をしていく

明石
同じアイテムでも、これだけ買っているエビデンスがあると、視聴者が受け取る重みが変わってきますよね。そしてもう一つ驚いたのが「顔出ししない」スタイル。Instagram やYouTube だと顔を出していたと思うんですけど、TikTok では顔出しなし。ファンデーションも手の甲に塗る。この「顔出ししない」スタイルが、視聴者からするとありちゃんを見てるのではなく、ありちゃんを通して一緒にコスメを見てる感覚になるのがすごく新しかったのかなと。どうしてこういうスタイルになったんですか?

ありちゃん
そこも明確に差別化を意識をしていましたね。当時はみんな顔出しするのが主流だったんですけど、あえて顔出しをしないでコスメにフォーカスを当てたらどうだろう?と。スマホのショート動画って、画面も小さいし時間も短いから、いろんな要素を削ぎ落としたんですね。その結果、顔出しなしで、自分目線のコスメレビューになりました。

明石
なるほど。スマホに最適化を考えると、自分の顔よりもコスメが主役になったってこと?

ありちゃん
そうですね。美容ジャンルにもいろんなニーズがあって。例えば元芸能人の方だと、その方自身がすごく綺麗で、その方への憧れから「どんなコスメを使っているのか知りたい」というニーズだと思うんですよね。でも私自身はその分類じゃない。元々@cosmeで働いていたので、その自分らしいリアルな経験に振り切りました。

明石
僕、よくホワイトボードに書き出すんですけど…
SNS で活躍するクリエイターをマッピングすると、こういう4象限になるんじゃないかなと思っています。

ー ホワイトボードより。SNSクリエイターをマッピングすると…

明石
インフォメーション性、エンタメ性、タレントタイプ、専門家タイプ… こうすると、今ありちゃんが言ってくれた芸能系ってのは左半分の領域ですよね。

ありちゃん
そうですね。逆に、私が狙ってたのは反対側のインフォメーションかつ専門家の領域ですね。

明石
「支出の半分」とインフォメーションの裏側のエビデンスを載せて、自分主語というよりも、自分が紹介する情報でファンが付いていますよね。

ありちゃん
本当にそうです。SNS ってアカウントコンセプトが9割だと思っていて。なので、自分の個性×TikTok で空いている領域を考えました。

ー ありちゃんが狙った領域

明石
一方でありちゃんの憧れの人として、ゆうこすさん(*1)が挙げられていますが…

ありちゃん
ゆうこすさんは、発信しようと思ったきっかけですね。ただ、ゆうこすさんは私のコンセプトとは違うなとは思ったんですけど。

明石
ゆうこすさんはこの中(ホワイトボードの図)で言うと、タレントタイプで、かつインフォメーション寄りということですね。

ー ゆうこすさんはマッピングでいうと、この領域だと考える


ありちゃん
そうですね。タレント要素もあるけど、情報も教えてくれますよね。いわゆる THE ・コスメアカウント界隈ってガチレビューするんですよ。全種類出して、全部塗ってみたいな。でもゆうこすさんは、「これよかったよー!」のような若干紹介が緩いところも良くて、そこはタレント要素も強いと思いますね。

明石
なるほどですね。TikTok では、美容ジャンルのクリエイターのタイプを意識して、このポジションは空いてるんじゃないか?というポジショニングをかなり意識したってことですよね。

ありちゃん
そうですね。TikTok 以外でも美容ジャンルにおいては、「ガチでインフォメーション系」が集中しちゃってる状況もあるので、そのくらい本当に意識してインフォメーション系に振り切って頑張ってるつもりです。

ありちゃんに聞く、”TikTok 売れ” するコスメの秘密

ー ここで少し閑話休題。明石が最近気になっていた”TikTok売れ” コスメやクリエイターの撮影事情について、ありちゃんに教えてもらいました。

明石
話は変わるんですが、人気のコスメアイテムって各SNS によって全然違いますよね。特にTikTok とInstagram は全く違うなと思っています。

ありちゃん
全然違います!コスメを買うのって、これまで「かわいくなりたい」というのが多かったと思うんですけど、TikTok だと「体験として面白そうだから試してみたい」も伸びますね。Instagram ってかなり美容オタクが強いプラットフォームというか、たくさんアイテムがある中でどれがいいの? 高いもので失敗したくないならどれ?という比較検討に必要な情報がすごく求められる。でもTikTok に関しては、単純に体験として面白そうとか、音とか。

明石
なるほどね。静止画の情報だけじゃなくて、動画映えするか?という「エンタメ性」が大事なんですね。

ー 例えば、音に中毒性がある「ASMR」もTikTok ならではの美容ジャンル。ハッシュタグ #skincareasmr(5.9B:59億回再生)#asmrmakeup(7B:70億回再生)など、億単位で人気のジャンルに(2023年11月30日時点)


明石
2021年、日経トレンディのヒット1位になった”TikTok 売れ” というワードがあるんですけど。これを狙って今コスメブランドは各社TikTok 予算を増やしているとも聞きます。
TikTokの美容ジャンルど真ん中にいるありちゃんにとって、”TikTok 売れ” したコスメで何が思い浮かびますか?

ありちゃん
これはもう、無印良品のアイシャドウですね。オレンジのやつ。

明石
ほう、無印ですか。

ありちゃん
大前提、みんなが知ってるブランドだからTikTok と相性が良いんです。値段も安いし、すぐ買いに行けるから。しかも、実際に色味が可愛かったんですよ。

ー 無印良品の「アイカラー クリームタイプ / 01 オレンジブラウン」。ありちゃんも実際に「SNSでバズった無印良品コスメ3選」としてTikTok で紹介しています
出典: https://www.tiktok.com/@arichan_make/video/7091214105931042049

明石
でもこのアイテムは新商品じゃなくて、ずっとあったんでしょ?突然世間にバズることがあるんですね。誰が発信源だったの?

ありちゃん
やみちゃん(*2)です!

明石
おおー。

ありちゃん
やみちゃんは、安定して動画再生数が伸びるイメージがありますね。みんな続いて発信してました。
TikTok ってコメント欄がコミュニティ化するんですよね、「私もそう思った」「私は違う」とか。だから、より1個の動画コンテンツが口コミにつながるから視聴者としても買う時の参考になりますね。

明石
面白いですね。誰かの投稿をきっかけに盛り上がって、他のクリエイターに伝播していく現象って、Instagram でもYouTube でもあったかもしれないけど、特にTikTok の爆発力ってすごいじゃないですか。“TikTok 売れ” という現象になるくらい。

ありちゃん
それは感じます。実際に私が投稿したアイテムでも、動画の再生回数が30〜40万回くらいのアイテムは、お店に行った時にPOP になってたりとか、「TikTok で話題!インフルエンサーが激推し!」っていうコピーになってたりして(笑) 実際に私がきっかけなのかは分からないですけど、そのコスメの2色目ができたりとかもしますね。

明石
YouTube やInstagram の世界ではなかなかそうはならなかったと思うんですよ。”売れ” までいかない。なんでTikTok だとそうなると思いますか?

ありちゃん
どうなんだろう。思うのは、TikTok って不完全さがすごく正義なんですよ。YouTube やInstagram って、画質が綺麗だったり、ちゃんと作り込まれたりしているものをみんな見たがるんですけど、TikTokはスマホでサクッと撮って編集した動画でいい。私も初期はiPhone で撮ってたんです。
不完全さがあるコンテンツって、ある意味広告とは真逆の位置にありますよね。だからリアルで信じてくれるから広まるし、コミュニティとしてコメント欄にみんなの声が集まっていって、信憑性が高まってさらに広まるっていうループになるんだと思います。

明石
たしかに。” TikTok 売れ” が現象としてあるのは、その拡大していくループがあるからですね。
今言ってくれた「不完全さ」というワード、面白いですね。最近YouTube がかなり成熟してきていて、いわゆるテレビのタレントが YouTube クリエイターとして入ってきたり、いいカメラや機材で撮る人が増えている。 TikTok もスマホじゃなくて、一眼で撮るクリエイターを見かけるようになってきたじゃないですか。これはどう思います?

ありちゃん
実は私も最近一眼に変えました。TikTok 全体としても、少しずつ画質が良くなっている傾向にあると思います。一眼に変えた理由の1つは、自分のブランディングのフェーズを変えたいからですね。最初の「ありちゃん」を知らないフェーズは、みんなと同じ目線でのレビューで一定数見つけてもらっていたと思うんです。でも今は、同じ目線のコンテンツだからではなくて、「ありちゃん」っていう人に対するファンになってほしいと思っています。

明石
さっき、ありちゃんが言っていたリアルな親しみやすさがあるから広まるっていう話と、一眼で撮ることは相反してる気がするんですけど…

ありちゃん
「不完全さ」「リアルさ」をどこで残すかのバランスですかね。一眼で撮って画質はすごく綺麗なんだけど、動画内に失敗シーンを残したり、ビフォーアフターのビフォーは綺麗すぎないリアルさを出したり、親しみやすくすることもできると思うんです。あとは、喋りかたを「めっちゃやばかった!」みたいに少しくだけた感じにするとか模索してます。

明石
なるほどね!どこかに、不完全さや親しみやさを残しつつ、クリエイターとしてどこを目指すかというブランディングとのバランス感覚が大事ということですね。

ー まだまだ話は続きます。対談の後半では、ありちゃんが考える、伸びるクリエイターの違いやクリエイターの成長プロセスについて伺いました。

👉後編に続く

*1 ゆうこす(菅本 裕子)は、メイク・ファッションをはじめとした動画が人気の「モテクリエイター」であり、実業家、HKT48の元メンバー。福岡県北九州市出身。KOS所属。
*2 やみちゃん(一色あやみ)は、スキンケアやデンタルケア、素をキレイにするための美容品をレビューしている動画が人気な美容系クリエイター。愛媛県出身。化粧品検定1級。TWINPLANET所属。

PROFILE

美容系クリエイター ありちゃん
新卒で@cosmeに入社。正社員として4年間働いた後に独立し「毎月の支出の半分をコスメに充てる女」のキャッチフレーズで発信したコスメレビューシリーズの人気に火が付く。 現在はSNS総フォロワー数80万人を突破し、2021年最もTikTok で活躍した「TikTok CREATOR AWARD 2021」にて、ファッション・ビューティ部門のファイナリスト5名に選ばれる。SNS のみならず、雑誌 with(講談社)での連載実績や、CanCam(小学館)、bis(光文社)、ViVi(講談社)に出演するなど活動の幅を広げている。

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