伸びるクリエイターの必須条件とは。会社員からの独立と自分の「柱」を見つけるまで ── 美容系クリエイター ありちゃん × 明石ガクト 対談(後編)
SNS で合計80万人(2022年8月24日 時点)のファンを持つ美容系クリエイターのありちゃんを迎え、TikTok やクリエイター活動について語る本対談。前編では「支出の半分がコスメ」という彼女のアカウントコンセプトの誕生秘話を伺いました。
後編では、会社員から独立してクリエイターにフルコミットしていくプロセスについて聞いていきます。SNSクリエイターと『鬼滅の刃』の共通点も。
クリエイターとしての独立 ──「フルコミットしてる人には一生勝てない」
明石
では話題を変えて… 元々@cosme という会社にいらっしゃったじゃないですか。
ありちゃん
そうですね。
明石
美容業界ど真ん中で、めちゃめちゃ憧れの職場だと思うんですよ。おそらくお仕事において満足度が高い場所にいた中で、クリエイターとして挑戦していこうって思ったきっかけはあったんですか?
ありちゃん
なんだろう。いろんな要素があったんですけど、どれを話そう(笑)
明石
自立してクリエイターとしてやっていきたいけど、いろんな事情で踏み出せない人ってたくさんいると思うんですよね。実は僕自身、元々会社で働いていたから独立する時は超ビビったんですよ。だから僕は、あんまり言ってないんですけど、1,000万円貯金したんですよね(笑)
ありちゃん
え!?(笑)
明石
1,000万円あれば多少なんかあっても大丈夫だろうと思って踏み切れたんですよ。僕の場合、背中を押してくれたのは、この貯金でしたね。同じように何も無いのに会社を辞めてフルコミットで発信活動をするって、みんななかなかできないと思うんですよね。
ありちゃん
会社を辞めようと思った理由の1つに、会社員とクリエイターの二足の草鞋でやっていると、どちらかにフルコミットしている人には一生勝てないっていうコンプレックスはありましたね。自分がクリエイターとして中々伸びていない中、クリエイターにフルコミットしてる友達が、どんどん伸びていく姿を数年間ずっと横で見ていました。一方で、会社に戻ってもやっぱり会社にフルコミットしてる人には勝てないなと思う瞬間がたくさんあって。年齢的にもそろそろ本気で結果を作っていかないといけないと考えた時に、何かを捨てる覚悟が必要だと気づきました。
でも最終的に背中を押してくれたのは、私もガクトさんと似ていて、自分が作ってきたセーフティーネットがあるなと確信できたから。辞めるまでの4年間で、SNS運用の方法も身についていたし、僅かだけどSNS でお金を稼ぐって経験もしていたし、何より@cosme で働いてきたキャリアもあった。当時26歳だったんですけど、別に1年間くらい何かに挑戦して、大きく失敗しても27歳から再就職なんて余裕で出来るなって。なので、いったん1年間だけ期限を決めて挑戦してみようと決めました。
明石
なるほど。
ありちゃん
1年間だけやってみよう、と考えたのが大きかったかもしれないですね。
「好き」「なりたい」だけでは、クリエイターにはなれない
明石
アンドリーセン・ホロウィッツという世界で一番有名なベンチャーキャピタルが提唱している話なんですけど「クリエイターには4段階の成長ステージがある」っていうのがあって。
Hobbyist (ホビイスト)というSNS での発信を趣味や仕事・学生の傍らではじめた人たち。次は Full-time Creator (フルタイムクリエイター)といって、会社を辞めたり、クリエイター活動にフルコミットした人たち。まさに@cosme を辞めた時のありちゃんがFull-time Creator ですね。
その次が Star (スター)。Star は、Full-time Creator でクリエイター活動を続ける中で、どんどんファンコミュニティが大きくなって、SNS を超えて色々なビジネスを展開する段階です。1番上は、Mogul (モーグル)というんですが、例えば、Jay-Z やアリアナ・グランデのレベル。これは日本語だと「教祖」という表現がいいかもしれない。
ー アンドリーセン・ホロウィッツが定義するクリエイターの4つのレベルはこちら
出典: https://future.com/creator-economy-levels/
明石
ただ、世の中でStar になった人たちは多く露出してるから、どういうクリエイターなのか?というのが比較的分かりやすいんですけど、Hobbyist からFull-time Creator になる段階ってなかなか露出していないから実態が分からないんですよね。
今のありちゃんの話を聞くと、もし失敗しても違う道もあるから、とりあえず一回やってみようというチャレンジだったわけですよね。この飛び込む時に、クリエイターとしてどうやっていくのかって結構先が見えないじゃないですか。
ありちゃん
見えない、本当に見えないです。
明石
その先が見えない中で、でもやってみようと思ったのはなぜだったんだろう。
ありちゃん
言葉で表現するのは難しいんですけど…
発信することや、コスメ自体が好きだったから、という気持ちも大きかったんですけど、「好き」以上の何かが自分の中にある気がしていて。たとえ1円もお金にならなくても、1日も休みが取れなくても、コスメの発信をし続けたいって心から思えていたくらいの領域だったから、チャレンジしました。
そんな熱中できる領域で、世の中に少しでも価値貢献が出来ているのかも?という実感もできていたから、今日ここまでずっと継続できたんだと思います。
明石
自分の好きなことと、社会から求められていることが重なった時に幸福度が高いってよく言われるけど…
ありちゃん
そうですね。「好き」と「求められていること」が重なってるから、ここまで続けられました。
明石
僕も最近、クリエイター志望の若い子に会うんですけど。やっぱり、これだけSNS で活躍するクリエイターが増えてくると、みんなクリエイターになりたいじゃないですか。その「なりたい」が先に来ちゃってて、じゃあ何を発信するの?って聞くと、うーーん決めてないです…という答えが多いんですよね。
「カフェ巡りとか?」って。「いや、カフェ巡りはね、一生フォロワー増えないよ」って話するんですよね。僕、カフェ巡りめっちゃ否定派なんですけど(笑)
ありちゃん
えー、なんでですか(笑)
明石
カフェ巡りでやるんだったら、ありちゃんくらい「この店はコーヒー豆がこうで、ミルクはこうで」とか、それくらい研究していればいいけど… でもほとんどの場合、ここのパンケーキって美味しいんですよね〜っていうのに留まってるんですよね。
ありちゃん
わかります、わかります(笑)
やっぱり伸びる子って当たり前の基準が高いんですよね。
明石
おお〜!当たり前の基準の高さですか。
ありちゃん
はい。普通の人だったらここまで調べないよね、ここまで足動かさないよねって部分まで、当たり前のようにやっているんですよね。むしろ「え、なんでそこまでやってないの?」みたいな空気感すら伸びている子達からは感じる事が多いので、当たり前の基準が違うんだなぁってよく思います。
明石
当たり前の基準の高さが、伸びているクリエイターの共通点ということだね。「好き」だけだと難しいし、さらに大事だなと思うのは順番。「クリエイターになりたい」が先に来るんじゃなくて、自分が好きで他の人よりも掘ってるものがあって、その先にツールとしてあるのがSNS っていう順番だよね。
ー クリエイターになるための順番イメージ。自分と世の中の重なりがあってこそ。
ありちゃん
その通りだと思います。「クリエイターになりたい」って気持ちも絶対必要だとは思うんですけど、「自分がこうなりたい」よりも、「こういう事が発信したい」が先に来る人が1番強いと思います。「クリエイターになりたいけど、何を発信したらいいか分からない」じゃなくて、「こういう事を発信したいからクリエイターになりたい」という順番ですね!
例えばモノマネメイククリエイターのいよちゃん(*1)はまさに後者だと思います。私も最近参考にしていますが、彼女は天才ですね(笑)「クリエイターになりたい」っていう熱量もすごく感じるんですけど、それ以上に「単純にメイクが好きなんだろうな」「面白いことを届けたいんだろうな」っていう気持ちが自然と視聴者側にも伝わるというか。
あとは領域が近いクリエイターだと、水越みさとちゃん(*2)ですね。彼女も、クリエイターになりたいっていうよりかは、自分の好きなコスメの領域でたくさんの人の役に立ちたいっていう熱意を感じる事が多いです。
ー メイクの域を超えたモノマネメイクが人気の「いよちゃん」さん
ー 「🛍コスメ比較の人」がキャッチコピーの「水越みさと」さん
伸びるクリエイターになるには「柱」を見つけて突き抜けろ
明石
それでも何を発信したらいいか見つからないんです〜って人にはどんなアドバイスをしたらいいですか?
ありちゃん
それが見つからないっていうのは、クリエイターになりたいけど自分の発信の軸が分からないっていうことですよね。その場合は、「とにかくなんでもいいから動画を作って発信してみる」に限ると思います。
私の場合、TikTok を初めて1ヶ月くらいで10万フォロワーくらいいったんですけど、その理由は、それ以前に2年近くYouTube で色んな動画パターンを作って、自分の発信の軸が元々わかっていたからだと思っています。自分の軸が分からない状態でも、まずは色んな動画を作って発信してみる。それを続けていくと、自然と発信の軸だったり、自分らしいコンテンツの色がわかったりすると思うんです。
明石
なるほどなあ。自分の色ね。(前編で話した)自分らしい個性と、クリエイターの4象限の話につながりますね。
ー SNS のアカウントコンセプトとは 自分の個性 × ポジショニング。詳細は前編をぜひご一読ください
ありちゃん
続けることで気づくこともありますね。
もちろん最初は伸びないんですよ。全然伸びなくて、 なんで伸びないんだろうって考えて。私も初期は伸びてるアカウントを全部真似して動画を作ったりしていました。でも、それでも伸びなかったんです。全く同じなのになんで伸びないんだろう?と思って。
でも途中から気づいたんです。もちろん、需要のある企画の傾向や、視聴維持率が高くなる構成、みたいなものはあるものの、最後は発信者自身の色を付け加えないと、動画って伸びないんですよね。それこそ美容ジャンルには色々なコンテンツがありますけど、同じ企画でも発信する人が異なるだけで動画の内容ってやっぱり全然変わってくるわけで。自分らしいコンテンツとは、一体どういうものなのか?を知る事が何より大事だと思います。でもそれは、動画をたくさん作っていく過程で、自然と自分の得意ジャンルはこれだなとか、見せ方はこれがいいなっていう風に気づいていくんです。
明石
なるほどね。SNS で人気なコンテンツには共通の「型」があるけど、その「型」をただ真似すればいいってわけじゃない。その「型」に「自分らしさ」が乗ってマッチした時に、1番コンテンツとしてレバレッジが生まれるんだよね。
(前編で紹介した)ありちゃんの初期のInstagram投稿はまさに「自分らしさ」があるよね。これ作るのめちゃめちゃ大変そうじゃないですか。バズるかどうかは置いといて、ありちゃんのコスメ紹介に対する情熱をめっちゃ感じる。
ありちゃん
全部手書きでやってましたね(笑)
ー 当時から変わらぬ「コスメ愛」を感じる、ありちゃんの投稿
出典: https://www.instagram.com/p/Bjcj65vH05M/
明石
普通お金もらわないのに、ここまでやらないですよ(笑) さっき「好き」だけじゃ難しいという話をしたけれども、「好き」は必須条件だよね。その発信したい対象に対して愛や情熱がある人じゃないと、クリエイターとして伸びないのかもしれない。
ありちゃん
そうだと思います。クリエイターにもフェーズはありますけど、1番最初に発信し始めた時は「フォロワー増やしたい、よし発信しよう!」「お金稼ぎたい、よし発信しよう!」というモチベーションではなくて、発信するものに対する愛とか情熱が本当に必要だと思います。
明石
たしかにね。じゃあ最初のアドバイスに戻ると、自分が好きで、人生のほとんどの時間でそれを考えちゃうみたいなことがある人は、クリエイターになった方がいい。ただクリエイターになりたいだけの人は、もう少し色んなものに触れたり、いろんな経験を積んで、まず好きなものを探してもらうってのがいいかもしれないですね。
ありちゃん
そうですね。なんかたまにYouTube で発信してみたいから、まずはサポートしてくれる事務所を探してます!みたいな人を見かけるんですけど… そう言ってる人は絶対伸びないです(笑)
明石
そうなんだよねー(笑)
ありちゃん
言う前にもう動き出して、土台も自分で作って。たとえ誰からもサポートされなくても、絶対自分はこの道で行ってやる!みたいな。クリエイターにはそのくらいの熱量は必要だと思います。
明石
そうだよね。僕、よく『鬼滅の刃』に例えて「柱」で説明するんですけど。世の中にいろんなジャンルのものがもやもやと漂ってるんだけど、その中の「柱」になるつもりでやらないとクリエイターとしては成功しにくい。
ー 『鬼滅の刃』の「柱」とは…
初心者の読者向けに説明すると、鬼を狩る目的で作られた組織「鬼殺隊」での各ジャンル最強剣士を「柱」といいます
出典: https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1629033602
明石
差し出がましいようだけど、僕で言うと「動画制作柱」みたいな。ありちゃんは「20代女性がコスメを買うときに、1番参考にする柱」みたいな。自分はずばりこうです!と言える「柱」があるかどうか。そこの解像度が、すごいフワフワしてると難しいんですよね。
例えばさっきの「カフェ巡り」。「カフェ巡り」だとフワフワしてますよね。もっと磨き上げて、「コーヒー豆」とかなら「柱」として突き抜けられると思うし。それがありちゃんの言う「アカウントコンセプト」に近いかなと思いました。
ありちゃん
大袈裟かもしれないけど、その「柱」にならないと死ぬくらいの覚悟は必要だと思います。今、美容ジャンルで活躍してる周りの子たちを見ても思うんですけど、みんな何かしら頑張る理由を持ってる子たちが多いんですよね。そんなに頑張らなくても別に平和に暮らしていく道もあるはずなのに、それでも頑張ろうと思う理由というか。その理由は、劣等感でもいいし、その領域に対する愛でも何でもいいとは思うんですけど。圧倒的頑張る理由がないとクリエイターとして「柱」になるのは難しいなと日々思っています。
明石
たしかにたしかに。何かを好きである気持ちは大切ですよね。いつも自分が好きなものへの熱量を高く持ち、情報を掘り続けられるものが個性あるコンテンツになっていく。そこに世の中のニーズやSNS の「型」が掛け合わさった時、「アカウントコンセプト」「柱」として立っていくのかなと思いました。
ありちゃん
その通りですね。
明石
ありちゃんのコスメへの情熱は、クリエイターになる前も、なった今も変わらないなって、今日改めて話して思いました。
ありちゃん
うれしいです、ありがとうございます!
最後に一言。クリエイターを目指す方へアドバイス
明石
最後にありちゃんから、美容ジャンルでSNSクリエイターになりたいなと思っている方にぜひ一言を!
ありちゃん
クリエイターって、自分らしさや好きを最大限活かせる生き方だなと思います。会社員でも、もちろん生かせると思うんですけど、「好き」を自分の1番の武器にするのがクリエイターとしての生き方。だから、自分らしさを最大限活かして、自分らしく活躍してほしいなと思います!
*1 いよちゃんさんは、東京在住の女子大生。コロナ禍で暇だからやってみたモノマネメイクが視聴者の心を鷲掴みにしフォロワーが急上昇中。
*2 水越みさとさんは、わかりやすく真似しやすいメイク動画やコスメ紹介動画が人気の美容系クリエイター。C Channel所属。愛知県出身。
PROFILE
美容系クリエイター ありちゃん
新卒で@cosmeに入社。正社員として4年間働いた後に独立し「毎月の支出の半分をコスメに充てる女」のキャッチフレーズで発信したコスメレビューシリーズの人気に火が付く。 現在はSNS総フォロワー数80万人を突破し、2021年最もTikTok で活躍した「TikTok CREATOR AWARD 2021」にて、ファッション・ビューティ部門のファイナリスト5名に選ばれる。SNS のみならず、雑誌 with(講談社)での連載実績や、CanCam(小学館)、bis(光文社)、ViVi(講談社)に出演するなど活動の幅を広げている。
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